再建外科の基本とスーパーマイクロサージャリー

3番目に登壇した山本匠氏(国立国際医療研究センター 形成外科診療科長、国際リンパ浮腫センター センター長)は、再建外科の領域の1つであるスーパーマイクロサージャリーの臨床応用として30弱の症例と、医工連携に求める開発ニーズを具体的に示した。スーパーマイクロサージャリーは、患者さんの身体的負担を抑えながら様々な身体機能の再建を可能にする一方で、数々の技術的ハードルがある。山本氏は発表を通じて、医工連携によりさらにスーパーマイクロサージャリーが普及することで世界中の再建医療レベルが改善し、患者さんのメリットにつながることへの期待を述べた。


 

あらゆる組織を対象とする再建外科

再建外科は皮膚、骨、筋、腱、神経、腸などほぼあらゆる組織を対象に行われ、なかでも微小血管の剥離、吻合操作を要するものを再建外科医が手がける。例えば、生体肝移植では門脈などの太い血管は肝臓外科医が吻合するが、直径2mm前後の肝動脈は顕微鏡下で再建外科医が吻合する。こうした血管・神経の修復のほか、切断された指などの再接着・再接合、失った組織を別の組織から移植する骨・軟部組織再建、顔面神経再建など、症例の写真を提示しながら手技を紹介した。

がんの手術後の再建は、手術で失われた組織を補うために患者さん自身の体の他の部位から皮膚、神経、血管などを移植することが多い。大腸がんで腹部の皮膚にまでがんが浸潤した症例では、腸と皮膚を切除した腹部に太ももの表面の筋肉膜を血管がついた状態で移植する。乳がんの手術後の乳房再建においては、下腹部から血管がついた状態で皮膚と脂肪などの組織を移植し、乳輪は色のついた皮膚を移植して再建する。かつては見過ごさざるを得なかった患者さんのQOLに配慮する治療が可能になったことを紹介した。

リンパ浮腫を治療する時代の幕開け

乳がんや子宮がんなどの手術でリンパ液の通り道であるリンパ節を切除することにより、リンパの流れが閉塞、鬱滞して、手足がむくんでしまう症状をリンパ浮腫という。がんは治療できても、治療によるリンパ浮腫は治療が困難であるため、圧迫療法などの対処療法が行われるのが一般的だ。これに対する外科的手段として、リンパ管と静脈をつなぐ方法は古くからある。しかし、かつてのそれは、吻合というよりも微小なリンパ管をそれよりも径の太い静脈に差し込むようにつなぐ術式だったため、弱点もあった。静脈に差し込まれた細いリンパ管の切り口が血流を受けることにより、血栓を生じる原因になる恐れがある。その血栓はエコノミー症候群として知られる肺塞栓を引き起こしかねない。次第にこの術式は廃れていった。1980年頃の話である。

再び、リンパ管静脈吻合が脚光を浴びたのは、リンパ管をそれと同じくらいの細さの「細静脈」と吻合する術式を光嶋氏が世界に発信した1990年頃のこと。光嶋氏が開発したスーパーマイクロサージャリーは、真のリンパ管吻合によるリンパ静脈バイパスを可能にし、高度かつ困難とされた「リンパが静脈に流れる」ことを証明した。この功績が認められ、光嶋氏のもとには数多くのドクターが修練に訪れ、その一人が山本氏だった。

なぜ、リンパ管細静脈吻合(LVA: Lymphaticovenular Anastomosis)は、リンパ浮腫の外科的治療の選択肢として世界的に広まったのか。その理由に、全身麻酔をしてリンパ節移植をするのに対して、局所麻酔下で1箇所10〜50分、1吻合につき3〜17分程度で行えるため、患者の負担が軽く、日帰り手術であることが挙げられる。LVAで症状の緩和が可能となり、さらにリンパ浮腫の初期にLVAをすれば、圧迫療法を必要としない症例もある。「治らないと言われてきたリンパ浮腫が治る時代になってきた」と山本氏。

マイクロとスーパーマイクロの壁

スーパーマイクロサージャリーは、リンパ管吻合、小組織の再接着、同時多数組織移植、複雑な組織再建などへの臨床応用が広がる。この分野を志す再建外科医が山本氏のもとに修練に訪れる。

山本氏は、これまで国内外の再建外科医に指導をしてきたが、「全員ができるわけではない。その国では一流と言われるマイクロサージャリーの腕を持っていても、スーパーマイクロサージャリーは一筋縄ではいかない。それだけ技術的なハードルが高い」と話す。

マイクロサージャリーもスーパーマイクロサージャリーも顕微鏡下で行うことには変わりないが、術式はまったく異なる。前者は、左手に持った鑷子の先を血管の中に入れて針をガイドするが、後者は、鑷子の先が血管の中に入らないため、ガイドなしで針を正しい場所に通すことになる。「ここに技術的なハードルが生じている」と山本氏は見る。

スーパーマイクロサージャリーのハードルを医工連携で突破

スーパーマイクロサージャリーは、術者には最高難度の技術が求められる。より洗練された再建、より低侵襲な治療を可能にするため、患者さんにとってメリットがある一方で、数々の技術的なハードルがある。そのハードルを下げる方法として、山本氏が注目するのは、「術前マッピング」「術中ナビゲーション」「吻合補助」における医工連携だ。

手術前に細い血管をしっかりと確認することを目的とする「術前マッピング」では、超音波画像診断装置が使われる。最近、臨床現場で使われるようになった70MHzの高周波超音波画像診断装置は、これまで0.5mm程度が限界だったところに、0.3〜0.2mmのリンパ管の確認を可能にし、内部の弁の構造までも把握できるになったという。光音響イメージの研究も進んでおり、今後の臨床応用が期待されている。

超音波画像診断装置を使った血管を確認する精度は、操作する医師の経験に依存する点がネックになっている。経験が浅い医師には判断が難しい。「深層学習やAIの技術を活用することで、こうした課題を解決できるのでは」と、山本氏は話す。術中ナビゲーションや吻合補助についても、術者として医療機器の改良や新規開発への具体的なニーズに触れ、「医工連携により技術的なハードルが解消されて、さらにスーパーマイクロサージャリーが世界に普及し、再建医療レベルが向上。患者さんがその恩恵を受けられることを期待する」と述べた。