超微小外科技術(スーパーマイクロ)の機器開発と臨床応用:世界への発信

 一番目の登壇者は会長の光嶋氏で、「超微小外科技術(スーパーマイクロ)の機器開発と臨床応用:世界への発信」をテーマに挙げた。自身が生み出し1990年前後から世に送り出した数々の手技と手術の事例、設立から関わる超微小外科領域の国際的な学会の動向、ヨーロッパで加熱する超微小外科ロボット開発を含む海外の動向を紹介した。欧米の医療機器メーカーが手術とセットで日本に輸出をしてきたように、日本からも世界への輸出システムを確立できるのが、超微小外科・再建外科であり、「未来外科」と位置付ける。



コロナ禍で加速するオンサイトからオンライン開催への移行

2017年、光嶋氏は世界中の若いスーパーマイクロサージャンを育てるICSM(International Course on Supermicrosurgery)を立ち上げ、定期的にカンファレンスを開催する。しかしながら、2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の広がりにより、国境を超える移動が困難なため、開催地に集まれない状況が続いている。1人でも多くの医師の技能向上が望まれる医療現場や、1日でも早く手術を受けることを望む患者の数が減るわけではない。こうしたなか、すでに海外では新型コロナに影響を受ける前からオンライン会議システムを使った講演会や講習会が浸透しつつあったことから、ICSMをはじめとする超微小外科領域においても比較的スムーズにオンライン開催へのシフトが進んでいることを紹介した。

 

手技を支えるデバイスの進化

微小外科は、直径1mm以下の神経や血管をつなぐ手術のことで、超微小外科(スーパーマイクロサージャリー)はさらに微細な組織をつなぐ。より微細な組織の吻合が可能になることで、これまで不可能と考えられてきた病気の治療に希望の光をもたらした。スーパーマイクロサージャリーは、病気や事故で失われた体の部位を元どおりとまではいかないが、組織の移植などにより、できる限りの機能を修復することを目指す手術であることから「再建外科」と言われる。

具体的な症例として光嶋氏は、リンパ浮腫治療や乳房再建、事故で失った爪を含む指先の再建、先天性の口蓋裂治療など8人の手術の事例と、使用した医療機器・器具を紹介した。「吻合するために必要な針糸は、組織のおよそ10分の1の細さ。これを開発したのも、その針糸を扱うピンセット類を開発したのも、術野を見るための顕微鏡を開発したのも日本企業である。スーパーマイクロサージャリーの手技とセットでこれらの国産医療機器を世界に送り出していきたい」と述べた。

また、昨今、顕微鏡を覗かず、内視鏡を用いて正面に設置された画面に術野を投影する「ヘッドアップ」での手術にも注目が集まる。光嶋氏は、解像度4Kの3次元画像や、8Kで2次元画像でのヘッドアップ式でおこなった手術を動画で紹介し、「高倍率の術野で非常にクリアな画像を見ながら手術ができることを実際に確かめた」と手応えを示した。

「血管、神経、リンパ系のバイパス手術など、肉眼では見えない組織の治療が可能な時代に入り、今後、ますます医工連携が重要になる。その市場を広げるためにも海外との連携は欠かせない」と発表を締めくくった。